西山洋市Presents! 役に立つ山中貞雄丹下左膳餘話 百萬両の壺河内山宗俊人情紙風船戦国群盗傳山中貞雄西山洋市

やみつきCinema Crew vol.1

2009年5月30日(土)〜6月26日(金)

レイトショー 連日21時開映

ラピュタ阿佐ケ谷

傑作『丹下左膳餘話 百萬両の壺』でメルヘンとしての映画の限界点に到達し、『河内山宗俊』ではメルヘンからの離脱を試み、『人情紙風船』ではついにメルヘンから断絶した山中貞雄の戦いは、悪夢からの覚醒のような不安で不安定な目覚めの朝でフリーズしたままだ。だが、その不安と不安定にこそ日本映画の可能性が内蔵されている。
29歳で死んでしまった山中貞雄は、生き残ることができた三本の映画で、いま生きているすべての者に、日本映画の観客そして作り手としての覚醒を促している。

5.30[土]−6.5[金]

丹下左膳餘話 百萬両の壺

1935年(S10年 26歳)/日活/白黒/92分

■原作:林不忘/脚色:三村伸太郎/撮影:安本淳/音楽:西梧郎
■出演:大河内傳次郎、喜代三、宗春太郎、沢村国太郎、花井蘭子、深水藤子、高勢実乗、鳥羽陽之助

『丹下左膳餘話 百萬両の壺』写真

(c)日活

山中貞雄は小さい映画を好む。百万両の隠し場所の地図が塗りこめられた壷の探索競争という表面的にはスケールの大きそうな話も、江戸裏町の町内を往来する人と物の行き違いとすれ違いだけで面白い映画に出来る。大袈裟な舞台も仕掛けもいらない。その時、江戸の町内には不思議な遠心力が発生し、小さくて複雑怪奇な宇宙になる。そこには人間業を超えた行いをする怪人物も棲んでいる。いまどきのロード・ムービーもストリート・ムービーも目ではない。しかも、これは、物語の王道であるみなしごの成長譚にもなっている。怪物・丹下左膳に守られた孤児が一時も離さず抱えた壷が、いかにして子供の成長を促したか。

6.6[土]−12[金]

河内山宗俊

1936年(S11年 27歳)/日活/白黒/81分 ※16mm

■原作:山中貞雄/脚色:三村伸太郎/撮影:町井春美/音楽:西梧郎
■出演:河原崎長十郎、中村翫右衛門、市川扇升、山岸しづ江、市川莚司(加東大介)、原節子

『河内山宗俊』写真

(c)日活

これもまた江戸裏町の狭い町内を人と物がぐるぐる回っているうちに遠心力でドラマに加速度がつき、不良少年のちょっとした非行が、侍とのいざこざ、心中事件、やくざとの揉め事、少女の身売り、大名屋敷での大博打、親分襲撃、大立ち回りと、とめどなく膨張してゆく小さな宇宙を作り出す。主役は痛快な悪党の河内山と好漢の金子市だが、一方で不良少年が大人にならざるを得ない過酷な通過儀礼の物語を描いている。粋がって大人ぶるが実はモラトリアムな少年広太郎を命がけで成長させんとする大人の男たちは何を願ったのだろうか。

6.13[土]−19[金]

人情紙風船

1937年(S12年 28歳)/PCL(東宝)/白黒/86分

■原作:三村伸太郎(河竹黙阿弥『髪結新三』を翻案)/撮影:三村明/音楽:太田忠
■出演:河原崎長十郎、中村翫右衛門、山岸しづ江、霧立のぼる、坂東調右衛門、市川笑太郎

『人情紙風船』写真

(c)東宝

山中貞雄の遺作となったこの映画では、もはや子供や少年の成長譚は描かれない。描かれるのは中途半端な大人になってしまった二人の男の迷走である。一人は本職の髪結いをサボって自堕落な生活を続ける遊び人の新三。もう一人は浪人の身で妻と貧乏長屋に暮らさざるを得ない侍の海野。身分も育ちも何もかも違う二人がたまたま同じ長屋で隣り合わせに住まっているところから、新三と地回りの親分とのなんだかんだの確執と海野の絶望的な就職活動の惨めな結果が、これまた江戸下町の町内でシンクロして暗黒の小宇宙が出現するのである。

6.20[土]−26[金]

戦国群盗傳

1959年(S34年)/東宝/カラー/115分

■監督:杉江敏男/原作:三好十郎(シラー『群盗』を翻案)/脚本:山中貞雄/潤色:黒澤明撮影:鈴木斌/音楽:團伊玖磨
■出演:三船敏郎、鶴田浩二、司葉子、上原美佐平田昭彦、志村喬、千秋実、河津清三郎

『戦国群盗傳』写真

(c)東宝

山中貞雄が滝沢英輔監督作品として書いた脚本を黒澤明が潤色し、杉江敏男が監督したリメイク作品。黒澤の手直しは一部に限られ、しかも的確。正統娯楽映画としてのツボを押さえていて納得のいく面白さになっている。いまからちょうど50年前(山中の死後21年目で生誕50年)に改めて山中の可能性を再発見しようとした映画であり、その一つの具体的な答えがここにある。中でも甲斐の六郎役の三船の快演は見もの。まるでもともと三船のために書かれた役としか思えないほどだ。敵役の平田昭彦や河津清三郎らのダークな魅力も見ものだ。

text by 西山洋市

★トークイベント

各作品の上映初日(5/30、6/6、6/13、6/20、いずれも土曜)に西山洋市のトークがあります。

※ご好評につき最終日にもトークイベント開催!

日時:6月26日(金)21:00『戦国群盗傳』終了後

※トークイベントの内容を公開中!

「役に立つ山中貞雄」西山洋市トークatラピュタ阿佐ケ谷

山中貞雄 (やまなか さだお)

1909年11月8日京都生。扇骨商の六男。18歳でマキノプロに入社。その後、嵐寛寿郎の元で脚本家として活躍、23歳の時『磯の源太 抱寝の長脇差』で監督デビュー。日活に入りベストテン常連監督となり、小津安二郎、清水宏らと親交を持つ。稲垣浩らと鳴滝組を結成、会社の枠を越えて共同作業を行う。『戦国群盗傳』(37年・滝沢英輔監督)はその成果。大河内主演の『国定忠治』、『百萬両の壺』が大ヒット。歌舞伎界に反逆した前進座を起用した『街の入墨者』は最高作との評もあり。『河内山宗俊』は彼らとの二度目の作。共にPCL(後の東宝)に移籍、第一弾『人情紙風船』が遺作となる。1938年9月17日出征先の中国河南省にて29歳で逝去。監督作品21本の中、現存するのは3本のみ。愛称は社堂(Shadow)やん。

西山洋市 (にしやま よういち)

「山中貞雄が好きなのは、まず芝居が面白いから」、さらに「時代劇、コメディ、コンビネーション、殺陣、そして酔っ払い」という要素には山中作品に出会う以前の子供の頃から魅かれていたと言う。
それらのルーツである近衛十四郎(『素浪人 月影兵庫』『花山大吉』)に改めて特別なものを感じる今日この頃。自主/商業の枠を問わず、演出を探求し続ける。近年のDVD化作品としては『稲妻ルーシー』、『運命人間』、『グロヅカ』など。6月3日にアテネ・フランセで最新作『吸血鬼ハンターの逆襲』(中村愛美主演)を含む上映あり。1959年生。

やみつきCinema Crewとは

世界の先端に立つ映画制作者・批評家を導師とし、企画&トークを行う上映チーム。不定期開催ながら次回クルーは高橋洋氏を予定しています。

料金(当日)

一般…1,200円
シニア・学生…1,000円
会員…800円
水曜サービスデー…1,000円均一

インフォメーション

  • ●午前10時15分より当日の全回分の整理番号付き入場券を発売します。定員48名になり次第、締め切らせていただきます。
  • ●上映開始後10分を過ぎてのご入場はお断りさせていただきます。
  • ●作品により画像、音声が必ずしも良好でない場合がございます。あらかじめご了承下さい。