映画探偵の映画たち 失われ探し当てられた名作・怪作・珍作

■ 作品解説 / /

※適正映写速度が作品によって異なるサイレントフィルムに関して、当館では映写機の仕様上、24fpsでの上映となります。
あらかじめご了承下さい。以下に記載の上映時間も映写速度24fpsの場合です。

12月20日(日) 〜22日(火)

薩摩飛脚

1938年(S13)/新興京都/白黒/サイレント(オリジナルはトーキー)/86分 ◯東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品

『薩摩飛脚』写真

■監督:伊藤大輔/原作:大佛次郎/脚本:原健一郎/撮影:三木稔
■出演:市川右太衛門、市川男女之助、鈴木澄子、羅門光三郎

薩摩屋敷に拉致された同僚を奪還すべく、単身乗り込んでいく公儀隠密。伊藤大輔サイレント期の名作の、トーキーリメイク版である。米日系人博物館で発見された。ただし、音がない。わざわざ音声トラックのない状態でプリントされ、日本語弁士の解説とともに上演されていたらしい。映画にとって音声とは何か、常識を揺さぶる一本。

12月23日(水) 〜30日(水)

特急三百哩

1928年(S3)/日活大将軍/白黒/サイレント/62分

『特急三百哩』写真

写真提供:プラネット映画資料図書館

■監督:三枝源次郎/原作・脚本:木村千疋男/撮影:気賀靖吾
■出演:島耕二、山本嘉一、瀧花久子、三桝豊、三田實、吉井康

鉄道マンによる鉄道のための鉄道賛歌。八六二〇、C五一、C五三など、昭和初期に活躍した機関車が次々登場する、鉄道ファン必見の一本。序盤の汽車同士のチェイスシーンは、手に汗握る緊迫感だ。後に「風の又三郎」(40)で映画史に名を残すことになる、島耕二監督が若手スターだった時代の貴重な主演作品という点でも見逃せない。

1月2日(土) 〜9日(土)

荒木又右衛門

1925年(T14)/日活大将軍/白黒/サイレント/4分

『荒木又右衛門』写真

写真提供:おもちゃ映画ミュージアム

■監督・脚本:池田富保/撮影:浜田行雄、松村清太郎
■出演:尾上松之助、河部五郎、新妻四郎、市川市丸、大谷鬼若

日本最初の大スター「目玉の松ちゃん」こと尾上松之助晩年の代表作。太田米男・大阪芸大教授が古物市で発掘した4分の断片だが、晩年の松之助の演技について多くの情報が詰まっており、一瞬たりとも見逃せない。歌舞伎の所作を引きずりつつも、映画的表現を模索していた「ニュー松之助」がどのようなものだったか、あなた自身の目で確認できる。

1月2日(土) 〜9日(土)

荒木伊賀越三十六番斬り(荒木又右衛門)

1930年(S5)/松竹下加茂/白黒/サイレント/16分

『荒木伊賀越三十六番斬り(荒木又右衛門)』写真

写真提供:おもちゃ映画ミュージアム

■監督・脚本:悪麗之助/原作:大隈俊雄/撮影:杉山公平
■出演:月形龍之介、堀正夫、高田浩吉、高松錦之助、広田昴

28歳で夭折した伝説のアナーキスト映画監督・悪麗之助唯一の現存作品。わずか16分ではあるがひととおりのストーリーはたどれる。文献上のニヒルな監督像とはまったく違い、痛快な殺陣とコミカルな演出が強く印象に残る。文献だけで映画史をたどる限界と発掘の大切さを教えてくれる一本。松之助版と仇討場面を比較してみるのも興味深い。

1月2日(土) 〜9日(土)

尊王

1926年(T15)/阪東妻三郎プロダクション/染色/サイレント/6分

『尊王』写真

写真提供:おもちゃ映画ミュージアム

■監督・脚本:志波西果/撮影:鈴木博
■出演:阪東妻三郎、森静子、中村吉松、中村琴之助

「東山三十六峰静かに眠るとき」との弁士による語りで伝説となった作品だが、現存するのは太田米男教授が発掘したこの6分の断片のみ。現在でも人気の高い阪妻だが、サイレント期の作品はほとんど残っていない。阪妻プロ時代の代表作とされる本作品からは、当時絶賛された、アウトサイダーな阪妻像をうかがうことができる。

1月2日(土) 〜9日(土)

一殺多生剣

1929年(S4)/市川右太衛門プロダクション/白黒/サイレント/26分 ※Blu-ray

『一殺多生剣』写真

写真提供:牧由尚

■監督・原作・脚本:伊藤大輔/撮影:唐沢弘光
■出演:市川右太衛門、沢村勇、金子弘、高堂國典、泉春子

伊藤大輔絶頂期の一本だが、ネットオークションで破格の値段がつけられ、話題を呼んでしまった。日本映画研究者でコレクターでもある牧由尚氏が買い取ったものの、フィルムの保存状態は劣悪。太田教授の陣頭指揮のもと、イマジカウェストの懸命な修復で上映可能になったが、極めて傷の多い画面となった。今後さらなる修復が必要。それでも衝撃力は十分に伝わる。

1月10日(日) 〜12日(火)

忠治旅日記 甲州殺陣篇

1927年(S2)/日活大将軍/白黒/サイレント/1分 ※DVD ◯早稲田大学演劇博物館所蔵作品

■監督・原作・脚本:伊藤大輔/撮影:奥阪武男 ■出演:大河内傳次郎、市川市丸、木下千代子、中村仙之助

戦前の映画には「指紋」がある。検閲の整理番号が、映画の冒頭にパンチ穴として残されているのだ。わずか1分の断片だが、実際に劇場で上映された「甲州殺陣篇」のプリントそのものが後に切り出されて販売されていたことを示す貴重な資料。開巻すぐに表れるフィルムの「穴」に注目されたい。幻の甲州殺陣篇、コピーではない、劇場版の本物だ。

1月10日(日) 〜12日(火)

忠次旅日記[デジタル復元版]

1927年(S2)/日活大将軍/染色/サイレント/74分 ◯東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品

『忠次旅日記[デジタル復元版]』写真

©日活

■監督・原作・脚本:伊藤大輔
■出演:大河内傳次郎、中村英雄、澤蘭子、伏見直江

いまや日本映画のクラシックとして、何度も上映されるようになったが、すべてはここから始まった。「忠次」なくしては、映画発掘への理解は進まなかった。戦前の映画がどれほど失われてしまったのか、映画ファンに知らしめたのは、実は「忠次」が発見されたことがきっかけだったのである。噛みしめながら、もう一度観てみよう。

1月10日(日) 〜12日(火)

國定忠治 信州子守唄

1936年(S11)/マキノ・トーキー/白黒/19分  ◯東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品

『國定忠治 信州子守唄』写真

■監督・脚本:マキノ正博/原作:伊藤大輔/脚本:千々喬一
■出演:月形龍之介、澤村國太郎、葉山純之輔、光岡龍三郎

今回の上映では「忠次」の「失われた部分」を探る機会としたい。このマキノ・トーキー版は、伊藤大輔版と同一のシナリオを使っている。伊藤版「忠次」の発見フィルムでは、欠落部を補うためにマキノ版が一部利用されていた。本作品は「信州血笑篇」部分にあたり、発見フィルムに残っていない部分もある。ぜひ見比べてほしい。

text by 高槻真樹

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