石井輝男 キング・オブ・カルトの猛襲

● 作品解説 / / /

11月24日(日) 〜26日(火)

花と嵐とギャング

1961年(S36)/ニュー東映東京/白黒/84分

『花と嵐とギャング』写真

©東映

■原作:藤原審爾/脚本:佐治乾/撮影:星島一郎/美術:近藤照男/音楽:三保敬太郎
■出演:高倉健、鶴田浩二、江原真二郎、曽根晴美、小川守、山本麟一、小宮光江、清川虹子

主要登場人物皆悪人、母親からその子供たちまで皆犯罪に手を染める一家の長男香港ジョーとその義弟スマイリー健を中心に、銀行から強奪した金をめぐり色と欲が絡み合うギャングアクション。新東宝を離れ東映に移籍した石井輝男の第一作でこれが初顔合わせになる高倉健、鶴田浩二をW主役に据え、アクションだけではなくコミカルな演出も加味し、それまでの片岡千恵蔵主演の東映ギャング映画などとは一線を画したモダンな作品に仕上げている。

11月24日(日) 〜30日(土)

黄色い風土

1961年(S36)/ニュー東映東京/白黒/89分

『黄色い風土』写真

©東映

■原作:松本清張/脚本:高岩肇/撮影:星島一郎/美術:近藤照男/音楽:木下忠司
■出演:鶴田浩二、佐久間良子、丹波哲郎、曽根晴美、小林裕子、八代万智子、柳永二郎、神田隆

雑誌記者の若宮は取材のため熱海へ向かう列車の中でカトレアの花の香がする女と見送りが一人もいない新婚夫婦のことが気に止まるが……。当時人気絶頂の松本清張の推理小説の映画化だが石井監督は「売れ残りみたいなやつで出来もあんまり良くなかったね」と回想していた。終盤の砲撃シーンで鶴田浩二のすぐ間際に着弾する箇所があるが、これは爆破のタイミングのミスで、カットがかかった瞬間鶴田が走って来て「俺を殺す気か!」と激怒したという逸話がある。

11月24日(日) 〜30日(土)

いれずみ突撃隊

1964年(S39)/東映東京/白黒/91分

『いれずみ突撃隊』写真

©東映

■脚本:石井輝男/撮影:山沢義一/美術:藤田博/音楽:八木正生
■出演:高倉健、杉浦直樹、津川雅彦、朝丘雪路、砂塚秀夫、安部徹、春風亭柳朝、三原葉子

一匹狼のヤクザ衆木、はぐれ者の彼は戦地でも転籍を重ね南支派遣軍の最前線へと送られて来た。彼はそこで初めて尊敬出来る軍人安川中尉にめぐり会う。石井輝男は新東宝時代に『戦場のなでしこ』という作品を撮っているがそれは終戦後の悲劇に巻き込まれる従軍看護婦たちの姿を描いたいわば悲話もの、純粋に戦場を舞台としたものとしては本作が唯一の作品。『兵隊やくざ』の先駆的作品ともいえるが西部劇を思わせる戦闘シーンなどは「独立愚連隊」シリーズにも通じる。

11月27日(水) 〜12月3日(火)

温泉あんま芸者

1968年(S43)/東映京都/カラー/89分

『温泉あんま芸者』写真

©東映

■脚本:石井輝男、内田弘三/撮影:吉田貞次/美術:矢田精治/音楽:八木正生
■出演:吉田輝雄、橘ますみ、三原葉子、三島ゆり子、高倉みゆき、賀川雪絵、應蘭芳、金子信雄

『徳川女系図』の僅か二ヶ月弱後に封切られた岡田茂企画によるエロ路線の作品ではあるが、本作は温泉街を舞台にした軽いタッチの艶笑コメディであり前作に比べると裸も少なめのため、いわゆる異常性愛路線とはちょっと毛色は異なる。ヒロインは橘ますみだが、吉田輝雄、三原葉子や高倉みゆきといった新東宝時代からの監督の仲間たちが物語を支えている。「温泉芸者」ものはこの後数本作られるが石井輝男はタッチせず荒井美三雄、中島貞夫、鈴木則文らが引き継いだ。

11月27日(水) 〜12月3日(火)

徳川女系図

1968年(S43)/東映京都/カラー/90分

『徳川女系図』写真

©東映

■原作:岩崎栄/脚本:石井輝男、内田弘三/撮影:吉田貞次/美術:矢田精治/音楽:八木正生
■出演:吉田輝雄、三浦布美子、三原葉子、国景子、有沢正子、三島ゆり子、南原宏治、小池朝雄

昔ながらの時代劇の人気に翳りが見え傾きかけた東映京都撮影所を立て直すために東京から呼び戻された岡田茂が立てた起死回生の企画がエロ路線であった。本作はその第一弾で本当の愛に飢え人間不信に陥る将軍綱吉の苦悩を軸にしながらもとにかく裸のオンパレード、これが大当りしこの路線はさらにエスカレートしていくことになる。この作品に出演した小池朝雄を石井監督は大層気に入り、その後の石井組作品、特に異常性愛路線には欠かせない俳優となった。

12月1日(日) 〜3日(火)

リングの王者 栄光の世界

1957年(S32)/新東宝/白黒/75分 ○国立映画アーカイブ所蔵作品

『リングの王者 栄光の世界』写真

©国際放映

■脚本:内田弘三/撮影:鈴木博/美術:小汲明/音楽:斎藤一郎
■出演:宇津井健、池内淳子、中山昭二、細川俊夫、伊沢一郎、若杉嘉津子、御木本伸介、天知茂

石井輝男の記念すべきデビュー作は足の不自由な妹の治療費を稼ぐために魚河岸から拳闘の世界へ転身した青年を主人公にしたボクシングアクション。元々の企画では主人公は天城竜太郎(若杉英二)だったが天城ではボクサーに見えないとの監督の希望で宇津井健に変更された。プロデューサーは新東宝時代の石井作品を多数手がけることになる佐川滉で、佐川が名古屋でスカウトしてきた星輝美がデビュー前に花売り娘の役でノンクレジット出演もしている。

12月1日(日) 〜7日(土)

日本ゼロ地帯 夜を狙え

1966年(S41)/松竹/カラー/89分

『日本ゼロ地帯 夜を狙え』写真

©1966 松竹株式会社

■脚本:石井輝男/撮影:平瀬静雄/美術:森田郷平/音楽:八木正生
■出演:竹脇無我、吉田輝雄、香山美子、杉浦直樹、山茶花究、待田京介、田中邦衛、嵐寛寿郎

精機社長秘書衆木は踊り子弓子と一夜を共にしたことをネタに脅迫を受けるが……。女性映画中心のカラーで男性向け作品に苦戦していた松竹がその打開策として石井輝男を招いて製作した一本。主演は竹脇無我ではあるが、石井監督は新東宝解散後松竹に移籍していた吉田輝雄に「助けて欲しい」と声をかけたほか、旧知の三原葉子や嵐寛寿郎、田中邦衛、待田京介、由利徹など「番外地」の面々も引き連れ乗り込み、初めての松竹においても完全に自身の世界を構築した。

12月4日(水) 〜7日(土)、11日(水) 〜14日(土)

網走番外地

1965年(S40)/東映東京/白黒/92分

『網走番外地』写真

©東映

■原作:伊藤一/脚本:石井輝男/撮影:山沢義一/美術:藤田博/音楽:八木正生
■出演:高倉健、丹波哲郎、南原宏治、待田京介、嵐寛寿郎、安部徹、田中邦衛、風見章子

米映画『手錠のまゝの脱獄』を翻案、換骨奪胎した本作は製作当時「登場人物が前科者ばかりで内容が暗く女優も殆ど出ない」といった理由から予算は大幅に削減されカラーから白黒作品に格下げされるなどの冷遇を受けるが、蓋を開けてみれば大ヒット、高倉健を一気にトップスターへと引き上げ、人気シリーズ化する。本作で主役と並ぶ良役“八人殺しの鬼寅”を得た嵐寛寿郎は撮影前に突然監督宅を訪れ「この映画は私がいただきました。どうも有り難う」と告げたという。

12月4日(水) 〜10日(火)

恋と太陽とギャング

1962年(S37)/東映東京/白黒/87分

『恋と太陽とギャング』写真

©東映

■原作:藤原審爾/脚本:石井輝男、佐治乾/撮影:山沢義一/美術:中島敏夫/音楽:八木正生
■出演:高倉健、江原真二郎、曽根晴美、小宮光江、千葉真一、清川虹子、三島雅夫、丹波哲郎

網走帰りの石浜は女房の典子とその母お真佐と共に国際賭博組織の売上を奪う計画を立てるが同じ目的を持つ常田と手を組むことになり……。『花と嵐とギャング』の姉妹篇で原作も同じ藤原審爾であるが物語には繋がりはなく、また脚本として佐治乾の名前もあるものの、実際には石井輝男自身によるほぼオリジナルのストーリー。とはいえ仲間割れの展開やラストなどスタンリー・キューブリック監督『現金に体を張れ』からの影響が見られ本人もそれを認めていた。

12月4日(水) 〜10日(火)

残酷異常虐待物語 元禄女系図

1969年(S44)/東映京都/カラー/94分

『残酷異常虐待物語 元禄女系図』写真

©東映

■脚本:石井輝男、掛札昌裕/撮影:吉田貞次/美術:鈴木孝俊/音楽:八木正生
■出演:吉田輝雄、山本豊三、橘ますみ、葵三津子、賀川雪絵、カルーセル麻紀、小池朝雄、石濱朗

異常性愛路線の時代劇第三弾。前作『徳川女刑罰史』は三話のオムニバス形式で作られ本作もそれを踏襲しサド・マゾの世界を追求した。本作から脚本に掛札昌裕が加わり、彼の参加により「中身もぐんと濃くなった」と石井監督は回想している。また終盤の火災のシーンでは自身が火のてり返しで熱くて立っていられないのに「小池朝雄、吉田輝雄、尾花ミキ、三人とも一言の愚痴もなく、火勢に耐えて演じきってくれた。その役者魂に脱帽であった。」とも語っている。

text by 下村健(日本映画研究家・ライター、石井輝男プロダクション)

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